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★★ ギャンブル化した証券取引 ★★ 2006年01月28日

 L社のH氏が逮捕された。世間(マスコミ)は彼を持ち上げていただけに『騙された』とこんどはコテンパンにやっつけようとしている。筆者は彼らを擁護する気は毛頭ないが、彼らは法の抜け穴をかいくぐって色んなマネーゲームを行い、勢いあまって不法行為までちょっと踏み外してしまったということであろう。特捜部が詳しく調べなければわからないままで、マネーゲームを続けて、もしかしたら彼が宣言していたように世界一の評価額の企業にのし上がっていたかも知れない。

 考えてみれば、彼らにあのようなマネーゲームをさせた証券取引の仕組みに問題があるのではないかと思う。そもそも株というのは、企業が広く世間から資金を調達する手段であって、売買による利ざやで稼ぐためのものではない。この基本目的からすれば、短期間で株を売買することすらおかしいのである。株を買うなら数年間は持ち続けるのが本来の形である。少なくとも1年間は株を持って、その会社の決算を見たうえで、思っていたよりも業績が悪ければ別の株に買い換え、業績が良ければ配当をもらって持ち続けるといったやり方が本来の株の持ち方であろう。株投資の儲けは、その会社が利益を生み出し、配当が増え、それに伴い株価が上がるという形であるべきである。

 それが、今の証券取引のシステムでは、『株とは短期の売買で儲けるもの』というのが定着したような印象を受ける。短期の売買で儲ける人がおれば、当然ながらその分損をする人がいるわけで、政府公認のギャンブルになってしまっているのである。そしてギャンブルで稼ぐ人のために、実際に金を持っていなくても、信用で取引したり、別の株を担保に取引したりすることができるというような便宜まではかられているのである。入力ミスが多発したが、これも手持ちの株が無いのに売りに出せるとか、買えるだけの現金が無いのに買い注文が出せるというシステムだから起こるのである。ギャンブル性が高いので、本来の企業価値で株価が付くのでなく、人気やちょっとした情報で株価が上下しているのである。人気が高いと企業の1株あたりの資産価値の数十倍の株価になったり、逆に人気が無いと数分の一の株価にしかならなかったりするのである。だから今回の事件のように嘘の情報で株価を吊り上げるというようなことになったのであろう。

 株関係の法令は証券取引法、商法など膨大な数の条文がある。これが毎年のように変更されているので、たとえ専門家でも何が合法で何が違法か判らないほど複雑になっている。理解できない法律は無いのと同じで、知らずに違法行為をする者が続出して当然である。取り締まる側も違法行為のあった時点ではわからず、1,2年後にあれは違法であったとして逮捕するような妙な現象も起こるのである。もっとすっきりした誰にも判りやすいシンプルなシステムにするべきではないだろうか。

 昨今、個人株主が増えて好ましい傾向だと言われているが、どだい素人の個人株主である。儲かっているのは運のいい一部の人で、大半の人は損をしているのがこの世界である。株という本来の目的に合ったシステムなら個人株主もささやかな配当で健全な資産運用ができるのであろうが、資本主義社会の困った一面が暴露された事件であった。

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