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★★ ツバメの巣 ★★ 2005年06月01日

 近所のお宅の車庫の壁の天井付近にツバメが巣をかけた。巣は2週間ほどで完成したようであるが、この間下にある車には泥や藁が落ちて悲惨な状態になっていた。次々泥や藁を持ち込みくっつけていくのであるが、かなりの量を落としてしまうのである。折角運んできた巣材なのでもっと丁寧に落とさないように巣を作ればよいのに、と思うがツバメはツバメなりに懸命に作っていたのであろう。泥は近くの田植えの終わった田んぼから運んでくるようで、黒土で乾いてもあまり強度が無さそうである。だから落ちやすいのであろうが、これに草藁を混ぜ込んで何とか強度を持たせている。本能とはいえ大した知恵である。もう卵を産んだかも知れない。雛が孵ればこんどは雛の糞で車が汚されそうで、まったくお気の毒である。車はゴミ袋をテープで貼り付けて防御されていた。

 ツバメは昔から民家の軒下に巣をかける習性があるようである。筆者が物心ついた時には、育った田舎の家の土間の天井の梁につばめの巣があり、毎年子育てをしていた。この土間は入り口の引き戸を開けて入るようになっていたのに、なぜこんなところに巣をかけたのか不思議に思えたのである。入り口の引き戸は昼間はいつも開けてあったので入ってきたのであろう。仕方がないので、いつも引き戸は20cmほど開けておくようにしていた。夜戸を閉める時はツバメが巣にいることを確認してから閉めていた。問題は朝である。ツバメは朝が早いのに、戸が閉まったままであるとツバメはピーピー鳴きながら家の中を飛び回るのである。だから、誰かが早く起きて戸を開けなくてはならなかったのである。子育てが始まると、糞が落ちてくる。親父が画板のような板を天井から紐で吊るして糞避けにしていた。毎年抱卵から巣立ちまで2ヶ月弱の間、飼っているわけでもないのにツバメの面倒をみなければならなかったのである。何年か続いたがいつからか覚えていないが来なくなった。寿命を全うしたのか、事故で死んだのか、もっと良い巣場所を見つけたのかわからない。当時、野鳥は益鳥と害鳥という分類がなされ、ツバメは益鳥、スズメは害鳥と教えられていた。だからツバメは大切に守ってやらなければならなかったのである。スズメは害鳥なので駆除した方が良いということで、空気銃で撃ったり、罠を仕掛けて獲って焼き鳥になっていたものである。ちなみに現在ではスズメも野鳥で獲ってはいけないことになっている。

 ツバメが民家の軒下に巣をかけるのは、天敵から雛を守る知恵からであろうが、元は崖の岩場に巣をかけていたのが、それに似た民家の軒下が良かったのであろう。天敵はカラスとヘビである。人が頻繁に出入りする場所ならカラスも近寄らないで安全とみたのであろう。ヘビも近づけない垂直の壁で雨のかからない場所を好むのである。我が家の玄関の軒下に巣をかければ大歓迎なのであるが、なぜ我が家でなかったのか、見てみると、丸い白木の柱があり、その上に梁があるのだが、梁の上に隙間がある。これではヘビが柱に巻きついて上がって、梁の上を横にも移動できそうな構造なのである。我が家でヘビは見たことがないが、ツバメは本能でここは危険と感じてより安全は方に巣をかけたのであろう。

 ツバメは農薬が多く使われたため減っていたが、最近また増えてきたように思える。ただ我が家の周りも田んぼが無くなり、水路も無くなり住宅地に変わっているので、折角戻ってきたツバメも餌の虫が居なくなればまたどこかへ引っ越さなければならなくなるのではないだろうか。ここで生まれたツバメが来年も再来年も近くへ戻って来てくれることを期待する。

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