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★★ 拭き掃除 ★★ 2004年12月31日

 普段殆ど掃除をせず、散らかって埃だらけの我家であるが、さすがに暮れには年に一度の掃除をする。拭き掃除をさせられたのであるが、どこもかしこも埃が溜まっているので、一度こすっただけで雑巾代わりのタオルが真っ黒になる。何度もタオルを折り返して拭き、ようやくきれいになるのであるが、家の木部はスカスカで艶も何も無い。あ〜ぁこの家もそろそろ寿命かな、と情けない思いをしながら拭いたのである。

 今はもう無いが筆者の育った田舎の家の柱など木部は黒っぽい飴色で艶があったように思う。今の我家は無茶苦茶安普請の家とはいえ何が違うのだろうか。昔の主婦は毎日のように拭き掃除をしていた。時代劇によくあるように、姑の厳しい目があって少しの手抜きもできず、寒い冬もあかぎれの手に鞭打ってしっかり雑巾を絞って拭き掃除をしていたのである。土間にカマドがあったので、木部に煤が付き、これを拭き掃除で擦り付けるため、黒っぽい飴色になったのであろう。煤のカーボンのおかげで腐りにくくなり、木造の家でも100年以上も長持ちしたのである。昔の円形の木製ちゃぶ台はニスなど塗ってなかったが、いつまでも光沢があった。これも毎日何度も人の手に触れ、布巾で拭かれていたので艶が出て長持ちしたのである。物は大切に、よく拭いてきれいにしていると、物は長持ちし、いつまでもきれいに保てるものである。

 筆者はかって塗料の技術屋であったが、鉄でも何でも保護のために塗料を塗るよりも、毎日のように拭いてやる方がきれいに保てると認識している。なぜかというと、塗膜には必ず目には見えないピンホールがあって、そこから水や酸素が入って腐食が進行するものであるが、毎日のように拭いておれば、鉄なら表面に薄いが緻密な四三酸化鉄皮膜が出来、ピンホールがあっても、手の油などで塞がれ錆びないのである。筆者が通勤に使っている自転車は、雨ざらしで置いているので、殆ど触れない部分はメッキや塗装がしてあっても、新車から1ヶ月もすれば、点錆びが出てきて、その後錆がどんどん進行した。ところが、毎日のように触れるハンドル付近は4年後に廃車する時までピカピカであった。車もしかりである。車の塗装はかなり強くなったが、何の手入れもしないで、雨ざらしで置いておればどこからともなく錆が出てくるものである。よく洗車し、自らワックスがけしたりして拭いてやれば、10年以上でもピカピカ状態を保てるのである。例えちょっと擦ってしまったとか、石が当ったところがあっても、拭いてやっておれば、錆びることはない。

 昔から、撫ぜたり拭いたりするのが物を大切にする象徴的行為とされてきたのもこのようなことであろう。筆者も、自分の趣味道具であるカメラやレンズ、スコープ、自転車、車はよく手入れをして拭いてやろうと改めて認識した次第である。しかし我家はもう手遅れのようで、拭き掃除では長持ちしないだろう。

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