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★★ 景観法 ★★ 2004年12月10日

 今年6月18日に公布された景観法がまもなく施行される。

 良い景観は国民共通の資産で、住民や行政、業者が力を合わせてその実現に努める、との基本理念をはっきりさせたものである。その条文の目的部分をここに挙げる。

(目的)
第一条 この法律は、我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため、景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り、もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的とする。

 日本でようやく景観に目が向いた。遅過ぎた法律である。
 日本は明治維新以来、「欧米に追いつけ」と開発、経済発展一辺倒でやってきた。この中で、町並みの美しさも含めて「欧米に追いつけ」なら良かったのだが、景観なんかどうでもよい。とにかく産業や経済で追いつくべく一生懸命やってきた。そして気が付いたら、いつの間にか追いついていた。またすでに追い越した分野もあった。しかし、どうだろう。これで良かったのかと、ふと反省させられるところが多いのである。膨らませ過ぎた風船がはじけてしまったというのもあった。すごい公害を撒き散らし、多くの犠牲者も出した。列島改造などと称してどんどん自然を壊して物を作った。土地を抱え込み過ぎた企業は次々倒産。金融機関は不良債権を積み上げ、国の債務は天文学的数字になってもまだ増え続けている。

 そんな中で日本の国土は、掘ったり埋めたり固めたりされ、どこもかしこも醜い人工物で埋め尽くされてしまったのだ。昨今、海や山へ自然を求めて出掛けて行っても、人工物の無い純粋な自然などどこにも見当たらない。山奥に行っても、尾根に送電線の鉄塔が立っていたり、通信用のアンテナがあったり、スキー用リフトがあり、そこへ電源を供給する電柱と電線、山肌は醜く虎刈り状態に木が切られている。街はどうかというと、一番醜いのは何と言っても電柱と電線である。電線は何でこんなに必要なのか不思議に思うほど、何十本も張り巡らされている。その間から見えるものは、どぎつい色や形の看板があっち向いたりこっち向いたり。こんな日本を「美しい日本」とはどんな見方をしてもそのようには見えない。日本への外国人観光客が少ないのは当たり前である。日本には観光するような美しい風景はないのである。

 筆者は一応自然写真を趣味にしており、風景を撮る機会も多いが、どこかにレンズを向けると必ずと言っていいほど、ファインダー内に人工物が入り込んでしまうのである。だから広角レンズで風景を撮る機会が減って、もっぱら望遠で、範囲を絞って撮らざるを得ず、望遠の使用頻度が高くなってしまっている。あるいは、野草など周りの醜い風景が写りこまないようマクロで撮るようにしている。

 こんなことに、日本のお役人なのか、政治家なのかわからないが、ようやく気付き始めたということであろうか。既にこんなに醜くしてしまった日本。はたして美しくできるのだろうか。今回の景観法は指定した地域をこれ以上醜くしないための法律であり、指定されなかった地域には開発という景観破壊が集中する危惧もある。これまで景観破壊の張本人であった国交省が担当して大丈夫なのか?。今後積極的に日本を美しく変えていくには、まだまだで、何度か法律を強化する必要がありそう。長い年月がかかりそうである。筆者の生きている間に多少とも成果を見たいものである。

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