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★★ 野生にとっての木の実・種子 ★★ 2004年12月04日

 先日お隣さんのご主人が庭の木の剪定をなさった。翌朝みてみると、毎年柿の木に実を数個残しておられたのが、今年は残っていない。かって、実を残しておられたのは、野鳥のためということで、毎年実が熟れた頃、ヒヨドリやすずめが実をついばんでいた。甘く柔らかくなると、数個の実は1週間程で無くなってしまったものである。その柿の実をついばむ野鳥を見たり、写真を撮ったりするのを私の楽しみにしていたのであるが、これが無くなってちょっと寂しい気もした。

 なぜ今年は実を残さなかったのか、わざわざ聞く程のことでもないので、勝手な推測をしておく。野鳥のためとして実を残すのは野鳥にとっては有難いことで、例え1週間とは言えここへくれば甘い実を満喫できるのであるが、人間にとっては迷惑なことしかないのである。ヒヨドリは早朝からキーキーうるさく鳴くし、糞は落とす。おそらく近隣への迷惑に配慮されたのであろう。

 そういえば、今年は熊が人里へ降りてきて、人間とトラブルを起こしているというニュースが多かった。今年は台風の上陸回数が多く、山奥の木の実が不作だったことが原因であるとか、あるいは過疎で、人里の柿の実などが収穫されないまま放置されているので、それを熊が食べに来る。熊は一度その甘さを覚えると、ドングリなんかよりずーっと甘い柿の実を食べたがってわざわざ危険の多い人里までも来るのだとも言われている。

 野生動物は、その活動の大半が生きていくためと繁殖するための食料を得ることに費やされている。夏の間は餌となる葉や草が茂り、虫も豊富である。秋には色んな木の実が実るが、冬になるとそれらの餌が無くなってしまう。そこで、熊は秋の間に果実などをたっぷり食べて、脂肪として体に蓄えて冬眠に入る。リスなどは木の実を集めて蓄えている。野鳥は渡りで食料の豊富な場所へ移動している。山の小鳥類は花や草や虫が少なくなる冬になると里へ降りてくるものが多い。彼らの食料として、人里の植物の実や種が重要な役割をしているのである。晩秋には色んな木の実を、冬になると雑草の種子類を食べるのである。元々イネ科の雑草は多く、小鳥の餌として売られている粟や稗も雑草の中によく見られる。繁殖力が強く、嫌われているセイダカアワダチソウも、あの黄色い花の後、白い綿毛のついた種(写真)ができるが、これも野鳥の食料になっており、バードウォッチャーに人気の高いベニマシコなどの好物である。これら雑草の種子が春先までそのまま残っておれば、野鳥達にとっては充分過ぎるほどの量が確保できるのであるが、最近の公園や空き地、河川敷でも整備が行届いて、雑草がしっかり刈り取られてしまうため、野鳥の食料も無くなってしまっているのである。最近人里や都会で見られる野鳥ではゴミを餌とするカラスがやたらと多い。野鳥の世界でも人間がバランスを壊してしまっているようである。可愛くて害虫を捕ってくれる小鳥類からは実や種などの冬場の食料を取り上げてしまい、嫌われているカラスにはゴミという形で季節に関係なくどんどん食料を供給しているのである。

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