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★★ 生命科学の究極 ★★ 2004年8月3日

 先日、日本の総合科学技術会議の生命倫理専門調査会が、ヒトクローン胚(はい)づくりを容認する方針を決めた。拒絶反応の少ない細胞や臓器を作る再生医療への期待があり、これによる医療技術を進歩させ、不治と言われた病の治療の道を開きたいという考えと、既にこの道の研究を進めている他国に遅れをとりたくないという気持ちの両方からであろう。

 バイオ技術、遺伝子操作技術がかなり進歩してきている。『生命の神秘』と見られてきたことが、次々と解明され、これを操作し、自然には発生し得ない生命を誕生させたり、それを利用する技術が開発されている。遺伝子操作した植物は既にかなり多くなり、食物としても出回っている。おそらく我々も既に遺伝子操作した大豆など直接でなくても、それを飼料に育った牛の肉としてとか、何かの加工食品や添加物として食べさせられているのではないだろうか。畜産の世界でも人工授精や代理母など、何等かのバイオ技術を使うのは当たり前になっており、クローン技術もかなり取り入れられているようである。

 生命科学は『神秘』と言われたように、想像もつかない程複雑で難しいと思われてきたこれら技術であるが、テレビの映像を見ている限りでは、いとも簡単に細胞核の入替が行われているし、その中に存在するDNAについても、ある酵素を入れて暖めたり振ったりするだけで切ったり繋いだりしている。DNAは「アデニン(A)」「グアニン(G)」「シトシン(C)」「チミン(T)」の4種類の塩基の結合した2重らせんからなっているとのことで、根本原理は案外単純なのである。おそらくそれを発見するまでは大変な時間と労力と並外れた発想力が必要であったのであろう。ただ現段階ですべての生命現象が解明されたわけではなく、おそらく本当の根本原理は原子、電子レベルの作用に行き着くのであろう。

 コンピュータの世界の根本原理は数値の0と1(電圧の高低、磁気のNS等)の操作であり、この単純な原理の複雑で膨大な組み合わせと応用で記録、計算、通信を行い、最近は映像の処理まで自在に行っている。おそらく鉄腕アトムのようなロボットが誕生するのも時間の問題であろう。非生命体でここまで技術が進歩するころには、当然ながら、生命技術でも同様のことが可能になると思われる。すなわち生命そのものを人工的に設計して作り上げることであり、人間にも適用されるかも知れないし、超人間(知能的、肉体的)を作り上げるのかも知れない。

 コンピュータについて考える時、よく人間の脳の働きと対比して考えるのであるが、もしも人間の脳の記憶原理や思考原理が解明されたなら、ある人の記憶や考え方を別の人にコピーできるようになるかも知れない。クローン人間が問題視されているが、ある富豪が自分のクローンを作ったとしても、考え方は伝わらないまま自分は死んでしまい、単に姿形が同じ人が残ったというだけにすぎない。しかし、記憶や思考のコピーができてしまうと、その人の肉体は死んでも、その人は生き残るのと同じであり、正に不死となるのである。人間の脳の限界がどこにあるのか判らないが、肉体は少年にして熟年の知識知恵を持ち、さらに新しい知識知恵を蓄えていくと、人類の科学の進歩はさらに加速度が付くことになる。

 こんな空想をしてしまうのであるが、人類の科学の進歩は際限がないものであるし、止めることはできないであろう。冒頭に述べたクローン胚づくりの規制が不要であるとは言わないが、間違った方向に進んで人類を破滅させないように適度な規制でコントロールしてもらいたいものである。現状の生半可な解明状況下では、実験段階で犠牲になる動物も多いことであろうし、とんでもない生命体が発生してしまうという危険性は大いにある。既にどこかの研究所で秘密裏に処分されているかも知れない。

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