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★★ 野鳥の警戒心 ★★ 2011年11月11日
筆者は野鳥の写真を撮ることが多い。秋が深まると色んな野鳥がやってくるので、野鳥を観察したり、写真に撮ったりと、楽しみも増える。先日谷津干潟へ行ったが、ここの野鳥たちは人間が居る岸近くでも、人間を気にすることなくせっせと採餌に勤しんでいた。
通常バードウオッチングはスコープや双眼鏡を使い、少し離れた位置から観察するのであるが、野鳥達はそれでも警戒して逃げることが多い。しかし、長年バードウオッチングを続けていると、そんな野鳥の中でも警戒心が非常に強いものから殆ど警戒心を持たないものまでいることがわかる。警戒心の強い野鳥はこちらからは見えないほどの距離でも、人間の姿を見るや否や即逃げ去ってしまう。逆に警戒心の少ない野鳥は全く人間を気にせず、踏んづけてしまうのではないかと足元が気になるほどの野鳥もいる。
野鳥にとっての天敵は第一に猛禽類やカラスで第二はヘビ類、人間はイタチやテンなどと三番目位に入るのではないだろうか。人類はかつては野生の鳥類も食料のひとつとし、カモ類などの水鳥や小鳥類も捕獲して食料にしてきたし、羽毛も利用してきた。おそらくその頃は人間が最大の天敵であったのだろう。従って彼らのDNAには「人間恐れるべし」としっかり刻み込まれているのだ。「野鳥を保護しよう」と言われだしたのは30〜40年前からである。筆者が若かりし頃は「焼鳥」というのは小鳥を丸ごと焼いたものだった。頭も足も付いたままである。この食材を捕獲するために「カスミ網」と呼ばれる網が野鳥の渡りの通り道に仕掛けられたりしたものである。今考えると随分残酷なことをしていたものである。今でもカモ等は狩猟の対象になっており禁漁区でなければ鉄砲で撃って鴨鍋にして食う人もいるのだ。
そんなことで、野鳥は人間を警戒して当たり前なのである。しかし、この野鳥の警戒心は種類によってかなり差がある。ヤマガラなどは人の手に乗って餌をもらうほどにもなるし、ジョウビタキなどはかなり近くまで逃げないで居てくれる。一方、身近な野鳥であるヒヨドリはかなり警戒心が強く、鳴き声は賑やかなのに、なかなか人目につく場所には来てくれない。また同じ種類でも場所や時期によってかなりの差がある。上高地へ行った時に感じたのであるが、ここの動物たちは野鳥でも猿でも、全くと言っていいほど人を恐れない。上高地のウグイスは人間から丸見えの場所で高さ5mほどの枝にとまって長時間ホーホケキョと囀っていた。ウグイスはどこでも藪の中に隠れて囀っており、なかなか姿を見せないものである。同じ公園で同じ種類の野鳥でも、渡ってきたばかりの11月〜1月ではかなり警戒心が強いが、3月〜4月になると人馴れして警戒心は薄れるようである。アオジなど来たばかりではチッチッと鳴き声はするが姿は見えないのに、春先になると、すぐ足元で採餌していたりする。
どうやら野鳥の警戒心は基本的にはDNAに刻み込まれているが、学習によって強まったり薄れたりするようである。学習能力の高いヤマガラなどは人間が危害を加えず餌をくれると学習すると手にも乗ってくるということである。また、その他の野鳥も餌付けなどを学習すると、警戒心が薄れて、餌をくれそうな人間を見ると近寄ってきたりするのである。「餌付け」について現在は「禁止」というのが一般的になってきている。結局警戒心を薄れさせて、人間以外の天敵の餌食になりやすくなったり、人間に依存して独自での採餌ができなくなってしまうのではないかとの心配からである。やはり、野鳥というものは警戒心のかたまりであって欲しい。馴れ馴れしく近づいて来たのでは写真に撮っても、写真の価値が低くなったような気がしてしまう。