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★★ クラウド・コンピューティング ★★ 2009年12月25日

 今、IT業界では「クラウド・コンピューティング」という言葉が盛んに使われている。この業界はなぜかワザとこのような判り難い言葉を使いたがるのである。そして読む人、聞く人は知っていて当然というようにコラムなどに解説なしに平気で使うのである。まあ、このようにして第三者がとっつきにくくすることで優越感を味わっているのであろうか。しかし、大衆が見るテレビコマーシャルにまでこの呼称が使われるのには驚いた。「クラウド・コンピューティング」を知らないテレビ視聴者はこの呼称をどのように受け止めているのだろうか?

 「クラウド・コンピューティング」とは、簡単に言えば、「コンピュータを使う業務は何もかもインターネットで出来るようにする」ということである。コンピュータを使うにはパソコンとOS(Windowsなど)とアプリケーションプログラム(ワープロなど)というものが必要であるが、このアプリケーションプログラムとしてのワープロソフトを自分のパソコンに持たなくてもインターネットのGoogleドキュメントを使って文書を作れるというのが、クラウド・コンピューティングそのものである。筆者の以前のコラム「Googleドキュメントを使ってみた」で予見した形態に向かっているということである。この仕組みを使えば、企業でも自社でサーバーや業務ソフトを持たなくてもコンピュータシステムを使えるのである。企業向けのクラウド・コンピューティングの例としてはセールスフォース・ドットコムが代表的な例である。サーバーも業務ソフトも不要ということは、それを管理するコンピュータ部門も不要ということになるのだ。まあ、実際には企業や部門独自のシステムも多いので、一気に100%クラウド・コンピューティングに変えてしまうというのは無理であろうから、サーバーもコンピュータ部門も無くすまでにはなかなか行かないであろう。

 コンピュータの使われ方というのは、コンピュータが使われ始めて以来5年周期ほどで変遷している。最初は(1)汎用コンピュータの集中型、その次が(2)クライアント・サーバーの分散型、そして今全盛の(3)ウエブサーバーの集中型、これからは(4)クラウド・コンピューティングの預け型、ということになるのであろうか。これらの変遷はコンピュータの進歩や通信の進歩、インターネットの普及などの環境変化により実現してきたのだ。クラウド・コンピューティングはインターネットの普及と高速通信、サーバーの高性能化、ウェブプログラミング技術の進歩により可能になったものである。

 さて、クラウド・コンピューティングが普及すると個人のパソコン、企業のコンピュータ、IT業界はどのように変わるのだろうか。  個人のパソコンでは、Windowsのような巨大なOSは不要になり、起動時間は数秒というようになるだろう。よく使うワープロや表計算、写真編集、年賀状作成、メールなどのソフトはプロバイダーとかGoogleなどから提供され、個人で購入する必要は無くなるだろう。データの保存もシステム提供側のストレージになり、個人パソコンは非常に軽い(容量、性能、重量)ものでよくなる。そうなれば、今のマイクロソフトのビジネスモデルは成り立たなくなる。おそらく彼らは別のビジネッスモデルを開拓することになるだろう。  企業のコンピュータでは、端末は総てシンクライアント(上述の個人パソコンのようなもの)で、どこででも無線LANが使えるものになるだろう。総てがクラウド・コンピューティングになり得ないので、企業独自のサーバーも併用することになるだろう。クラウド・コンピューティングの対象になるのは、どこの会社でも共通のネット販売ソフトや営業日報ソフト、会計ソフト、給与計算ソフト、メールソフト、文書作成ソフト、プレゼンテーションソフト等々と考えられる。  個人や企業が上記のようになる過程において、IT業界はそれらのウェブプログラミング技術が必須となるだろう。また個人でも企業でも共通のソフトを使うことになるので、実際に販売できるソフトの数は激減することになる。おそらく超大手しか生き残れなくなるのではないだろうか。

 これまでの変遷から推察すれば、このような形にはこの先5年間ほどで徐々に変わっていくのではないだろうか。現状のコンピュータの用途範囲で考えればそうであり、IT業界には悲観的な未来ということになる。しかし、コンピュータの可能性は無限である。パソコンが生まれた時代には想像も出来なかったインターネットが普及したように、現在では想像もできないような新しいコンピュータの使いかたが開発されるものと思われる。いずれにしても、使う側も造る側も世の変遷に合わせて変わっていかなければならないのだ。

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