戻る コラム一覧 山写真紀行

★★ 彩湖の自然保全ゾーン??? ★★ 2009年12月01日

 今日のウォーキングで、彩湖の下流側を歩いてみた。彩湖の幸魂大橋より下流側は自然保全のため人も車も立入りが禁止されているが、土手の上なら自転車か歩行で周ることができる。自然保全ゾーンなので、野鳥や水鳥やキツネ、タヌキ等も多いだろうと、期待をもって双眼鏡を覗きながら歩いた。

 彩湖は1997年3月に完成した人造湖で、秋ヶ瀬公園を含めた一帯が荒川第一調節池として治水の役割を果たすとともに、水不足の時の水道水としての利水、自然保全を目的としている。彩湖の広さは1.18平方km、深さは10.7m、埼玉県人口の6日分に相当する1060万立方mの水を貯めることができる。また、周辺に広がる自然環境に配慮した整備がなされ、彩湖に架かる幸魂大橋から下流側の「自然保全ゾーン」(65.1ha)では、オオタカ、ハヤブサ、ノスリなどのタカ類や、 コミミズクなどのフクロウ類をはじめ数多くの野鳥のほか、水辺を好む多様な植物を観察することができるとのこと。

 この立入り禁止されている自然保全ゾーンを土手の上から見下ろしながら歩いたのであるが、期待したほど自然は保全されていないように感じた。水鳥の数は圧倒的に上流側の方が多い。また、彩湖水門より下流の荒川本流の方が多い。アオサギ、カワウ、カモ類はいるが、きれいな水を好むカイツブリ類は全く見られない。小鳥類も上流側と比較して少ない。飛んでくる野鳥は土手や電線に留まるが下の葦原やその中の木にはあまり留まらない。湖畔は葦原が大半で木の数は上流側より少ない。トダスゲなどの絶滅危惧植物の生える余地はあまりなさそうである。人も車も立入りを禁止しているはずであるが、周回道路があり、ある程度の頻度で管理用の車が走っているらしく、新しい轍がついている。また、隣にある広大な荒川水循環センターの下水処理水が放流されているようで、閉じられた水門近くの水は黒っぽく汚れて見えた。また放流水溝近くでは下水の臭いが漂っている。浮き島(イカダとも称されている)がたくさん設けられているが、このブイが汚く見苦しい。「ブイの上に留まるアオサギ」なんて不気味で写真に撮る気も起こらない。「自然保全」を謳うなら景観も考えて、ブイはせめて浮島の中の外から見えない場所に設置すべきと思うのである。

 筆者は「自然保全のため立入り禁止」というのは「良い事だ」と素直に賛同し、野鳥や野草が増えることを期待していた。ところが、このような状況を見ているうちに、「何かおかしい」という思いが頭をもたげてきた。彩湖の立入り禁止区域は自然保全が主目的ではなく、下水処理水の最終浄化区域となっているのではないかということである。処理済の水ではあるが、汚く、臭いもあるので、人に立ち入られるとまずい。そのために立ち入り禁止にしているのではないだろうか。実際見てみて、管理用の車が走っている道路を人がウォーキングやランニングで通行しても自然保全に何の支障も無いだろう。現状の自然は立入り禁止の下流側よりも人の多い上流側の方が豊かである。しかも、自然保全事業としてのサクラソウやトダスゲの植生試験は上流側でなされているではないか。

 帰宅後、彩湖についてネットで調べてみた。治水としての役割はちょっとした大雨では彩湖は有効なようである。それ以上の何十年に一度の洪水を起こすような大雨では特に彩湖ということではなく、秋ヶ瀬公園も含めた一帯が調節池となり、東京を洪水から守る役割は果たせるようだ。利水ということでは、通常は彩湖の水は水道水には使われていない。渇水時にのみ秋ヶ瀬取水堰へ送水して不足を補うとのこと。また荒川水循環センターから出る下水処理水も(全量ではないだろうが)彩湖の浄化機能を利用して水道水として使えるようにしている。このため浄化補助施設として、葦原を使った浄化施設や底水を循環させて滝にして戻す施設、噴水施設、さらに浮島や湖岸構造による浄化等がなされている。水道水としての取水は最上流側の機場であり、最下流側で放流された下水処理水は彩湖の浄化能力を最大限に使った後最上流側で取水される仕組みになっている。これは利水として有効な方法と言えるだろう。ちなみに筆者自宅から出た下水も彩湖で最終浄化されていることになる。自然保全という役割については、湖と葦原や森がその役割を果たしている。野鳥にとっては湖が絶対涸れることの無い最高の水場になっており安心して営巣もできるだろう。浮島も野鳥の営巣場所になりうる。数箇所にビオトープも設けられているので昆虫や植物にも良さそうである。

 調べた結果、あくまで筆者の推察であるとしておくが、自然保全のためだけで下流域を立入り禁止にする必然性は無さそうである。彩湖の役割を考えると、やはり下流側で下水処理水を(コントロールしながら)放流し、彩湖という大きな湖を使って自然浄化させる。自然浄化で足りなければ、浄化施設を稼動させる。そして渇水時には上流側で水道水として使用するという仕組みがあり、立入り禁止というのは下流側の下水放流場所は水が汚く臭いもあるので人を立入らせたくないための措置であると言えそうである。当事者として、これを正直に言ってしまうと、どこからか批判も出そうなので、これを恐れて、誰もが納得し、嘘でもない「自然保全のため」という理由付けをしたのであろう。当事者の苦労も察せられるが、筆者としては誤魔化されているのではないかというちょっとした嫌悪感も感じた次第である。

BACK