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★★ 結局は日本式経営が良かった ★★ 2007年07月22日

 ある企業で、いわゆるJ−SOXの内部統制評価を受けたところ、ある部署にリスクありとの判定を受けたとのことである。その部署には「優秀な社員」が居り問題なく非常に効率的に業務処理がなされていたのであるが、要は「優秀な社員は会社にとってリスク」ということであったのだ。

 これはどういうことだろうか。社員が優秀であることは一般的に会社にとって良いはずである。誰もがそう思うのであるが、今騒がれている「内部統制」とか「リスク管理」の考え方で評価されると、優秀な一人の社員に頼った業務体制というのはリスクであるとの結論になるらしい。超優秀な社員が居て、何でもかんでもその人が処理できた場合、業務体制はその人に頼った形になってしまう。仮にその人が経理部員であったとしよう。彼は会計士の資格をも持ち、企業会計のことは何でも判り、周りの人は判らないことがあれば、何でも彼に聞けばOKということで決算業務などが行われてきた。そして決算結果も正しく、監査法人による監査においても非の打ち所の無いほぼ完璧と言えるような決算処理が行われていたとしよう。

 間違いが無いのだから、財務統制上も一見問題なしと判定したいところである。ところが、もし、その人が病気で倒れたら、あるいは退社されたらどうなるか。他の経理部員は何でも彼に聞けばよいということで、自己研鑽することなくやってきたので、基本的な決算のやり方すらわからない。経理部長は他部門から人事異動で移ってきて間が無く経理業務には疎い。こうなると大変である。企業の決算そのものができなくなってしまうのである。企業の決算方法なんてどこの企業も同じようなやり方だからアウトソーシングすればよいということも考えられるが、そうは簡単にいかないものである。

 こんな危険性のある体制では内部統制がとれていないということで、即改善が必要ということになる。その人が居なくなっても業務が滞ることなく処理される体制を構築しておかなければならないというのである。優秀な一人に頼ることなく、周囲の部員にも教育訓練し、例え誰かが病気になったり、退社しても問題のない体制にしておかなければならないのである。

 これは人への依存はリスクであるということで、超優秀なコンピュータシステムが同様の処理をしているのであれば、J−SOX評価でもOKということになったのである。コンピュータシステムで充分なリスク管理が採られておれば、病気や退社は起こらないということである。

 日本の社会は昔から横並びが好まれてきた。年功序列というのも横並び原理である。それで日本的経営としてそこそこうまくやって来れたのである。ところが、ある時期から、アメリカ式の競争原理が取り入れられ、企業の内部でも社員同士競争させるというやり方に変ってきた。同一部署の仲間がライバルになったので、助けたり教えたりしなくなった。姑息な手を使ってでも自分の成果を高めようと考える者も出てくる。結局、企業不祥事の多発はアメリカ式経営を取り入れたがためではないだろうか。手本にしていたはずのアメリカで企業不祥事が続発。それへの対策でSOX法が出来た。当然アメリカに倣っていた日本でも企業不祥事が続発。それへの対策でJ−SOX法が出来た。そしてそれに対応しようとすると、どうやらいにしえの日本式経営の基本であった年功序列、横並び原理へ戻るようなことになりそうである。一部の社員だけが優秀というのは駄目で、全員が揃って優秀にならなければならないのである。社員同士の競争はしない方が良いということになる。

 日本式経営は良かったはずで、日本の高度成長はそのやり方で成し遂げられたのではなかったのか。一時アメリカも日本式経営を学ぼうとしたのではなかったのか。それなのに、何でもアメリカ式が良いという考えからアメリカ式の競争社会を作りあげてその悪い面に正に直面しているのである。J−SOX法での内部統制をしっかり構築すれば、それはいにしえの日本式経営であったということではないだろうか。随分遠回りしたものである。

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