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★★ 法律の不思議 ★★ 2007年04月29日

 このコラムで不祥事や事件が発生する度に新しい法律が出来て善良な市民や企業が迷惑を受けている。既存の法律を適用してしっかり取り締まれば新しい法律は不要であるという旨を書いた。

 ところが、その逆もまた多いようだ。今騒がれている代理母による出産や離婚後300日以内に生まれた子供の戸籍の問題である。これらはDNA鑑定すれば誰の子供かは明らかな事なのであるが、判らなかった時代に作られた法律の「・・・とみなす」という文言にいつまでも拘って「法律で定められているから認められない」というのは馬鹿げたことである。それならサッサと法律を改正すればよいことなのであるが、これがまたなかなか改正しようとしないのが不思議である。一方では不要と思われる法律が短期間で作られるのに他方では必要と思われる法律に一向に取り組もうとしない。

 例を挙げるとまだまだあるようだ。
 IT絡みでは法律の不整備が著しい。昔は形の存在しないものは価値が無かった。そんな時代に作られた法律が未だに通用しているのである。形が存在しない『情報』の扱いが全くいい加減である。昔は物が盗まれたというのは、元存在した場所から物が無くなり、盗んだ者が所有している場合に盗まれたという事実が明らかになったのである。ところが、情報が盗まれたと言っても、形としては確認できない。コンピュータの中身をディスプレイに表示してみても、被害者が盗まれたと主張する情報は表示されるので、無くなったわけではない。盗んだ側も、ネットから侵入したのであれば、指紋などの物的証拠は存在しない。もししっかりした管理体制が敷かれたコンピュータならログの形で○○というファイルがコピーされたというのが記録されている。しかし、犯人側の情報としてはログインIDと日時しかない。当然IDやパスワードも盗まれたものなので、そのID所有者が犯人と断定できない。不法侵入し、情報を盗んだ犯人の手落ちでIPアドレスがログに記録されておれば、犯人が割り出される可能性もある。一般のプロバイダー経由の場合はユーザーパソコンにアドレスは振られないので侵入の最中であれば何とかなるだろうが、アドレスから割り出すのは不可能に近い。そんなわけであるが、運よく(犯人側にとっては運悪く)犯人とおぼしきパソコンがつきとめられたとしよう。ところが、犯人側が盗んだ情報を自分のフォーマットのデータベースに他から入手した情報と混ぜて保存していたとすると、その情報が今回の事件で盗んだ情報であるかどうかを証明することはできない。他には絶対有り得ない固有のレコードが含まれておれば証明できるが、そんな対策を採っているところはまだ少ないであろう。

 こんな場合、まず盗んだかどうかの事実の証明が難しい。さらに、例え盗んだ事を証明できたとして、その情報の価値をどう評価するかである。物の場合は高額の物を盗めばそれだけ罪は重くなる。だが、情報の場合はその価値は定め難い。次の者にいくらで売り飛ばしたかによるのか?元データの情報収集と入力費用なのか?悪用された場合の被害額になるのか?情報と言ってもコンピュータデータだけが情報ではない。「聞いちゃったといえば聞いちゃったんだよね」というインサイダー情報もある。ここに至ると聞いたかどうかの証明は非常に難しくなる。情報の使い方次第で何億円もの儲けや損失に繋がるのである。
 こんなところが、法律でどこまで整備されているかというと、すべてお粗末で後追いさえできない状態ではないだろうか。

 大元の犯人が捕まったとしても、既に情報は多くの第三者に売り飛ばされているので、被害は無くならない。結局は情報を悪用する側を取り締まらないと意味がないのである。ところが、善用か悪用かどこで区別できるのであろうか。全うな企業が正当に集めたメールアドレスに商品の案内メールを出すのと、詐欺エロサイト運営業者が不当に入手したメールアドレスに迷惑メールを出すのと、形の上では何ら変わらない。要は発信元を詐称してメール発信できないような法律上の仕組みを作るなどする必要があるのである。あるいはインターネット接続はすべて本人確認による登録制にするなど、悪いことをすれば、必ず元がばれるような仕組みを作るほかないのである。このような法律を果たして誰か考えてくれているのであろうか、おそらく日本一国でできることではない。インターネットの匿名性を主張する反対もあるだろう。このような仕事をするのが政治家の仕事なのであるが、政党間の喧嘩ごっこに明け暮れている政治家さんや天下り先を作ることばかり考えているお役人さんにできるだろうか。お願いしますよ。

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