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★★ 内部統制って何だ? ★★ 2007年03月14日

 テレビコマーシャルから『内部統制』という言葉が聞こえてきたりした。Googleで「内部統制」と入れて検索すると何と4,040,000件もヒットした。上場企業に勤めている人なら、「あああのことか」と漠然と分かるかも知れないが、そうでない人には「何のこっちゃ」の世界であろう。実は前から噂されていた日本版SOX法である『金融商品取引法』が2006年6月に成立し、2009年3月期決算(2008年4月から始まる決算期)から適用されるのである。SOX法とはアメリカのサーベンス・オクスリー(Sarbanes‐Oxley)法のことで、エンロン事件やワールドコム事件など1990年代末から2000年代初頭にかけて頻発した不正会計問題に対処するため制定されたものである。法案を提出した議員の名前にちなんでこう呼ばれているものである。日本でも企業の不正会計事件が次々発生し、法改正がなされてきたが、それでも止まないため、ますます厳しい法律が制定された結果が日本版SOX法ということになる。

 監査法人と組んで『違法』な会計処理をしているのだから、元々違法。新しい法律を作らなくても既存の法律をしっかり運用して取り締まり、経営者もコンプライアンス精神がしっかりしておれば起こらない問題である。問題が起こる度に法律だけが厳しくなり、善良な企業が新しい法律への対応で大変な出費と作業を強いられることになるのである。他の法律でも似た現象が出ている。

 そして、『内部統制』というのはこの新しい法律で一定規模以上の企業の経営者に「内部統制がとれていますよ」という報告が義務付けられ、監査法人にも内部統制監査が義務付けられたのである。報告するからには、その証拠として、内部統制システム構築の証拠書類が必要になるのだ。いわゆる内部統制文書3点セットとして「業務記述書」「業務フロー図」「リスクコントロールマトリックス」が必要だと言われている。アメリカではSOX法対応で1企業あたり何億円も使ったといわれている。

 そこで、システムやコンサルタント関連企業がビジネスチャンス到来とばかりに内部統制対応システムの宣伝を始め、インターネットをはじめテレビコマーシャルにも登場といういきさつである。

 しかし、このような書類の例を見てみると、理論上から作り上げた監査する側に向けた書類であって、企業現場で実務上使って効果があるものとして作りあげられた書類とは思えないものである。金融庁の企業会計審議会内部統制部会のメンバーは大学教授や会計士、弁護士が大半で企業の実務経験者は少ない。この3点セットさえ作ってあれば内部統制がとれているとの監査結果を出せるというような形だけのものに思えてならない。このような書類作りだけなら、金さえ出せば、外注したり、ソフトを買って作れば出来てしまうし、一応法律にかなった報告書は出せるのである。実体はどうあってもである。

 だから、たとえ内部統制3点セットが整ってきちっとした内部統制報告書が提出されたとしても、経営者が「誤魔化してでも今期の決算を良くしろ」(ずばり言わず匂わす発言となるだろう)と指示を出せば、会計士に分からないような粉飾は出来てしまうものである。監査法人も使ってもらっている身であるので、何かおかしいと気付いても、表向きの書類が整っておれば目をつむって、「気付きませんでした」と責任逃れすることになるのである。このような経営者は今年は粉飾でごまかして、来年挽回しようと考えるのであろうが、そんなことを考える経営者に挽回する能力はありえないので、ずるずる深みにはまって、ごまかせない金額になってから発覚したり、内部告発でばれたというのがこれまでの例であり、おそらくこれからもそうなるのであろう。

 どうも法律とかお役所の世界では書類さえ整っておればOKという『形だけ』を重視するきらいがある。もっと『脚』を使った踏み込んだ取締りをやってもらえば、新しい法律を作らなくても防げる問題ではないだろうか。

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