戻る コラム一覧 山写真紀行

★★ レンズって面白い,次世代レンズは・・・・ ★★ 2007年02月10日

 筆者はここで、12-24mmという超広角レンズを購入した。写真を趣味にし、レンズ交換のできるカメラを持つと、どうしてもレンズというものに興味を持たざるを得なくなる。カメラとレンズは別々に購入することになるので、どんなレンズを買えばよいのか、選択において色々考えることになるからである。今回の筆者の超広角レンズの選択肢としては、N社12-24mm、S社10-20mm、S社12-24mm、KT社12-24mm、KT社10-17mm、T社11-18mm、であり価格は上は希望小売価格で17万円、下は最安値4万6千円台であった。超広角レンズは望遠よりも技術的に難しいレンズであり、購入する側も目の肥えた人が多いようで、安かろう悪かろう的な製品はなく、どれをとってもそれなりに使えそうな物ばかりであった。結局筆者はレビュー記事を参考にして最もコストパフォーマンスの良さそうなKT社の12-24mmレンズを選んだ次第である。

  「レンズ」と聞いて普通の人が思い浮かべるのは虫眼鏡であろう。小学校の理科とか工作では虫眼鏡を使った実験などを経験したことと思う。筆者も子供の頃は駄菓子屋で虫メガネを買ってきては、新聞紙の黒い部分を日光で焼いて穴を開けて遊んだり、2個の虫メガネで望遠鏡や顕微鏡にしたり、3個使うと逆像が正像になることを発見したり、幻灯機を作ったりと色んなことをして遊び、遊びを通じて自然と光の特性を学んだりしたものである。そんなことで、カメラにも興味を持ち、今の趣味にもなっているのである。

 レンズと言ってもカメラや双眼鏡に使われるレンズは虫メガネの1枚レンズと違ってものすごく複雑高度な設計で、ものすごく精密に作られているのである。凸レンズを例にとって見てみると、小学校の理科で習う範囲では、光は1つの焦点に集まるということであり、実験で日光を小さな点に集めることができ、それはそれなりに正しいように思える。ところが厳密にいうとそうではないのである。まず一般的な球面レンズでは、中心付近と中心から離れた場所では屈折の仕方が異なるので、1つの焦点に光は集まらないのである。これは球面収差と呼ばれ、これを補正するには、複雑な設計で特殊な製法を使う非球面レンズとしなければならない。また光は電磁波であり、波長の異なる電磁波の混ざったものである。その波長の違いが色の違いになっている。この波長の異なる光がレンズを通るとレンズを通過する際の屈折の度合いが異なるので、色により焦点位置が異なるのである。これが色収差と呼ばれ、これを補正するには、これまた複雑な設計で、屈折率の異なる材質の凸レンズや凹レンズを複数組み合わせたり、色による分散の少ない性質の特殊低分散ガラスと呼ばれる材質のレンズを使ったりするのである。平行光線を1点に集めるのであれば、これで良いのであるが、カメラとか双眼鏡として使う場合には、広い範囲から来る光をコントロールしなければならない。まっすぐな物がゆがんで写ってはならないし、同じ距離にある並行な線は並行に写るべきである。理想はピンホールカメラのように写るべきなのであるが、四角い物が樽形になったり逆の糸巻き形になったりするのである。焦点距離の長い場合は無視できるが、超広角レンズのように焦点距離が短い場合にはフィルムやCCDなど画像素子の結像部の中心と周辺部でレンズの中心からの距離が大きく異なるのでこれを補正しなければならない。このため、非球面レンズの非球面の設計で補正するのである。さらには、10mmといった超短焦点レンズの場合は、実際のカメラではレンズと結像部の中間にミラーがあるため20〜30mmの距離をとらなければならないという矛盾も解決しなければならないのである。

 そしてもっともっと大変なのが、ズーム。今ではビデオカメラでは光学20倍ズームもあり、この全範囲に亘って上述の諸収差を抑える設計が必要なのである。その結果、レンズは十数枚とか多くの枚数を組み合わせたものになってしまうのであるが、それぞれのレンズの両表面で約4%の反射ロスがあるためこれを少なくするためのコーティングも不可欠な要素になってくるのである。

 最近はコンピュータでレンズ設計も可能となっているので、経験値を設計ソフトに組み込むことにより、これまでは考えられなかったような驚くようなレンズ設計とその製造技術が実用化されるのではないかと思われる。筆者の望む理想的なレンズとしては、10mm〜1000mm(100倍ズーム)で明るく、1:1程度のマクロも可能、図体は現在の300mmレンズ程度で軽いものである。理論上は全く不可能ということではないと思う。図体は短くても倍率を上げることは可能であるし、フィルムより小さい画像素子なら35mm換算でこの仕様は達成可能ではないだろうか。レンズメーカー技術屋さんの挑戦をお願いする次第である。

 技術というものに想いを馳せると・・・、色んな物がデジタル化されている現在である、画像を最初に撮り込むレンズの部分をデジタル技術で別の物に置き換えることは可能であろうかと考えてみることがある。ひとつ考えられるのは凹面鏡のような鏡である。鏡面を微小な単位に分割し、これをMEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems=微小電気機械素子)としてコントロールするやり方である。そうすれば、焦点距離は自由に変えられるし、レンズに発生するような諸収差はすべて電子制御で解決できる。似たような技術として、ハワイの国立天文台すばる望遠鏡の凹面鏡は多くの凹面鏡をコンピュータ制御して1つの巨大凹面鏡としている。また、MEMSを使ったプロジェクターでは微小な鏡をデジタルでコントロールして映像を作っている。これらの技術を合体させれば不可能ではないのだ。何年か先、ビデオカメラやデジカメの形は今とは全く違ったものになっているかも知れない。

BACK