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★★ ホワイトカラー・エグゼンプション ★★ 2007年01月21日

 またまた聞き慣れない名前で翻弄されようとしている。「ホワイトカラー・エグゼンプション(white-collar exemption)」だ。この法案が登場したとき、筆者も初めて聞いた英単語であった。よく似たexceptionなら例外ということでよく聞くが、exemptionとなると免除とか所得税の課税控除という訳でこの用法では適用除外という法律的用語であって英語としても馴染みが無い。なぜ馴染みがなく、聞いただけでは判らない英語を使うのかというと、ずばり判ってしまうと反対されるので判らない言葉でごまかそうとしているのがミエミエである。日本国で日本人向けの制度なのだから「時間外労働手当非適用制度」と判り易い日本語で表現しろと言いたい。新しい英単語の勉強をさせてくれたことだけは感謝する。

 余談だが、わざと判りにくい英語や、全く判らないイニシャルを並べた名前を使いたがる人が多いのも困ったものである。その内ホワイトカラー・エグゼンプションはWCEと呼ぶ人が現れそうである。そんな判りにくい名前を使うのが「かっこいい」とか「知識があるように思われたい」と思っている『阿呆』が多いのである。セミナー屋とかコンサルタントを名乗る者に特に多い。彼らは商売柄一見知識豊富なように見せないことには売り込めないからであるが、彼らの講義を聞かされる身になればたまったものではない。講義を聞いても何か難しそうで結果として何も身についていないのである。本当に賢い人なら誰にでも理解できる判り易い日本語を使うものである。

 ホワイトカラー・エグゼンプションとは1日8時間、週40時間の労働時間規制が適用されず、働く時間の自己裁量が広がる代わりに、残業代が支払われない制度で、経営団体から要望されて法制化されようとしているのである。ぶち上げてみたものの、労働側の評判が良くないので参議院選挙前は控えておいて、選挙後に国会通過させようと企んでいるのである。

 筆者は普通のサラリーマンとして会社に入り、既に定年の年齢を過ぎる40年を経過したが、1度も残業代というものをもらったことが無い。入社したては技術職手当という形で、月20時間分程度の一律の残業手当に代わるものであった。実際その数倍の残業をし、休日出勤もしたが、給料は毎月同じであった。その後、技術職にそのような一律の手当では駄目であるというようになった時には、名目上は管理職ということになって、技術職手当が管理職手当という名前に変っただけであった。勿論管理する部下なんて居なかったのである。過労死問題が出るようになって、もっと厳しくなり、管理職とは課長職以上でなければならないというようになった頃には、一応「課長」の肩書きが付いて、2名ばかりの部下を付けられたが、今度はその部下の残業手当が多くならないように管理をさせられた次第である。

 世の中どこの会社もサービス残業をさせるのが常態化しているのであって、まともに割り増しの残業手当を払っていたら、もっと働いている管理職よりも給料が高くなってしまうという矛盾が出てしまうものである。企業は人件費は極力抑えたいがため、少人数で、できるだけ長時間働かせ、残業手当は出したくないのが本音である。そこでサービス残業という、一旦タイムカードを押した後も仕事を続けさせ、それも労働者が自主的にやっているように仕向けてきたのである。これが内部告発などでバレて新聞ざたになったりするので、これを法律違反にならず堂々とやれるようにしたいというのが、ホワイトカラー・エグゼンプションなのである。

 確かに自分の裁量で労働時間を決めて成果に対して報酬を受けるという理想的な働き方ができるのはいいが、そんな人は既に管理職というような待遇で残業手当の対象外になっているので必要はない。営業職などは元々固定手当も認められているので、ここでこんな制度を新設する必要は全く無いのである。良心的に運用すれば望ましい制度かもしれないが、法律というものは性悪説に基づいて定められるものである。悪い方ぎりぎりで運用されたら給料は制限ぎりぎりまで減って働く時間はどんどん増え、合法的過労死激増になるのが目に見えている。どうしてもやりたいなら、対象者に月50時間を越えての残業はもちろん自宅持ち帰りの仕事もさせてはならないとし、もしもそれを超えたら経営者を刑罰に処すというくらいの罰則を付けないと適切な運用はなされないであろう。発案者の本音で表現するなら『残業代ゼロ制度』が最も適しているように思える。

 政治献金をくれる経営者や富裕層の意見は聞くが、下層には言葉でたぶらかし、全く意見を聞こうともしない政治屋さんを増やしてしまったのは一体誰のせいでしょう。

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