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★★ にわかバーダー ★★ 2003年05月30日

 私は2003年4月半ばににわかバーダーになった。バーダーとはバードウォッチャー(bird-watcher)のことであり「野鳥観察が好きな人」と思っていただければよい。

 それまではバードウォッチングなんて殆ど興味を持っていなかった。子供が小さかった頃、地域活動の中でバードウォッチングの会があり、子連れで一度だけ参加したことはあるが、その時はムクドリやスズメ、カラスなど何処ででも見られる鳥ばかりで、感動も何もなく、一生懸命説明してくれた先生の話を「あっそー」とばかり聞き流したにすぎなかった。

 そんな奴が何故バーダーになったのか? 話せば長くなるのだが、それを短くこのページに書いてみた。

 元々自然が好きであった。子供の頃育った環境は瀬戸内の農漁村で、海に近く、田圃があり、溜池あり、魚や蛍のいる小川があり、また比較的大きな神社の森もあった。

 自宅の庭もそこそこ広かったが戦後のバタバタした時代で手入れをしていなかったので、草茫々の自然のままであった。そんな中で割と自然に親しんで育ったものである。中学一年の時、夏休みの宿題で昆虫採集をしたのだが、自宅の庭だけで採集して5箱程の標本を作り、優秀だと表彰されたものであった。昆虫が多いということは、野鳥もおり、庭の木でウグイスが鳴いていたこともあった。そんな田舎も今は溜池は埋め立てられて、田圃も無くなり、住宅地化し、蛍のいた小川はコンクリートで固められたドブになってしまって面影すら残っていないのだが。

 そんな環境で育ったもので、野山を歩くのが好きであった。だから大学ではワンダーフォーゲル部に入り、よくテントを背負って山に行ったものである。

 ところが、東京の会社に就職してからは、丁度高度成長期でもあり、毎日仕事が忙しく、住居も仕事場も東京のため、自然や山とは縁の無い時代が長く30年以上も続いてしまった。

 ようやく子供も成人し、手間がかからなくなった。仕事も役職定年で、いわば窓際族みたいなあまり忙しくない仕事に変わった。少し頭と時間に余裕が出来てきたので、デジカメを始めた(なんでデジカメか?は別のコラムをご参照いただきたい)。大した山には登れないが、山歩き程度はするようになった。自分のホームページを作り、山で撮ったデジカメ写真を載せた。自分のホームページを持つと、他人のホームページも気になるので、あっちこっち見て回った。初期は”ピーガーー”のダイヤルアップで、写真1枚見るにも時間がかかり、電話代も気になったが、ブロードバンドの時代に入り、時間や料金を気にせず暇な時間はかなりの時間”ネットサーフィン”を楽しめるようになった。

 この”ネットサーフィン”の中で見かけたのが、野鳥の大きくきれいな写真であった。野鳥は野山に行けば見かけるが、大体は黒い点がサッと通り過ぎる程度で、羽の色や模様は殆ど確認できないので、その野鳥が何であったかはわからない。たまに比較的近くの木に留まっているのを見つけてデジカメで撮ってみることはあったが、これも黒い点でしか写らない。思いっきり拡大して、ボーとした輪郭がわかり、図鑑と見比べてみてようやくその野鳥の名前が判るという程度であった。そんな野鳥が正に接写したように写っているのである。野鳥の羽の色や模様ばかりか、目つきや表情まではっきりわかるのである。かって見た野鳥の図鑑は殆ど絵であった。写真に撮るのは非常に難しかったのであろう。1000mm以上の超望遠でないと撮れないし、それもブラインドに隠れて何時間もかけて撮るのだという程度のことは知っていた。1000mm以上の超望遠レンズは車と同じ位、良いものは高級車を買う位の値段はすると言われている。そんなものを持ちたいという気持ちすら湧かなかった。それほど撮るのが難しいはずの写真が次々と見つかるのである。どのようにして撮ったのだろう?という疑問を持った。そして、同じく”ネットサーフィン”の中で見つけた”デジスコ”という語とが重なったのである。すなわち望遠鏡をデジカメで見る”コリメート”法なら可能であることがわかった。そして無理すれば自分にも手に入れることが可能であることがわかった。

 自分自身が野鳥にはまってみて、ようやくバードウォッチャーがはまった理由がわかったのである。自然に親しめることも理由であるが。何と言っても、普通は黒い点でしか見えない、一瞬でしか見えない野鳥をじっくり見ることが出来る野鳥のアップ写真を可能にできること。これは不可能を可能にする挑戦欲を満足させるものである。見方を変えれば、普段は見ることが出来ない珍しいものを見るという一種の野次馬みたいなものもある。始めの内はカラスやスズメ、カルガモであるが、次第に珍しい鳥へと移っていく。私はまだ撮っていないが、水辺の宝石と言われるカワセミを撮るともう一段深い深みにはまり込むらしい。今探鳥スポットには、見て聴くだけの自然観賞型のバーダーと写真に撮るバーダーがごちゃまぜで混みあっているようである。早朝から森を歩く。ストレスも発散し健康にも良さそうである。

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